「対談 現代の争議生活者を語る」より 3
田島 まだおうかがいしたいこともあるのですが、私ばかり
お聞きしましたので、いちおうの区切りにしまして、今度は
山口さんの方からいかがでしょう。
山口 私は田島さんの『争議生活者』、最初に三作目を読んで
それから一、二と読んだのです。たまたまそういうふうに。
読後の感想はいろいろとあるのですけれども、小説の筆者が
小説の中に登場してくるわけですね。これになるほどと思いました。
よく映画に監督がちょっと出てくるのと似ていますよね。面白い
というか、企画のユニークさを感じました。特に物語の中で、著者
がなぜ小説を書くのかを問われ、著者が書く人の気持ちを説明
しているのですね。納得させられました。先日、NHKのインタビュー
番組に松本幸四郎さんが出演していました。歌舞伎をやる目的は、
何のためにやっているのですか、との質問に対して幸四郎さんは
「歌舞伎は観客に観てもらって希望を与えたい」というのです。
小説『続・時の行路』の中で作者が登場し、「現実がどんなに
厳しくても、どこに希望を見出すかを探り、小説は読者を幸せに
しなければならないんです」と語る場面がありますね。あっ、小説と
歌舞伎と一緒ではないかと驚きました。作家の田島さんと歌舞伎俳優
の松本幸四郎さんが言っていることが一緒なので、なるほど、文学
とか芸術というのはそういうものなのだ、と考えさせられました。
今まで全く考えもしなかったことでした。
田島 ありがとうございます。(続く)