映画センター全国連絡会議主催の学習会で、試写会を見てくださった著名人に映画の感想文を書いてもらって、皆様にその感想文を伝えることは大きな力になるというご意見がありました。
さっそく、足立推進会議の田中もとじ氏が、作家早乙女勝元氏に依頼してくださり、早乙女先生もすぐに感想文を書いてくださいました。
早乙女先生、有難うございました。
映画「時の行路」に一筆 早乙女 勝元
映画「時の行路」の試写に行く途中で、映画の出来栄えについて考えた。正直なところ、一抹の不安があったが、それは原作を先に読んでいたからである。
争議生活者をテーマにした作品の映画化が困難なのは、多くの人々が労働争議への関心がまだ充分ではなく、「派遣切り」などの実態がぴんと来ないからだといえよう。
主人公の洋介は、大手自動車メーカーの派遣労働者として働いているが、正社員へなれそうな気運とは逆に、あっけなく解雇されてしまう。これが日本の現実で、スペアはいくらでもあるぞ、といったところか。寮からも閉め出された彼は、故郷にいる妻子への仕送りもできず途方に暮れる。
しかし、誠実で人望もある彼は、こんな不当な首切りは許せないと労働組合を立ち上げる。活動家というタイプではなかったが、たたかう道を選んだのには、同じ立場に立たされた仲間たちとの絆があったのだった。
それがよく描かれていて、説得力がある。会社の門前でマイクを手に訴えたりするのも初めてだが、人間の変わり目がきちんととらえられているのがいい。
ついに裁判にまで訴えるのだが、司法は弱い者の味方ではなかった。私も空襲被害者援護法で法廷での証人尋問に立ったが、胸が熱くなってくるのを覚えた。
そうしたたたかいのさなかに、故郷の妻が夫に隠していた乳がんが悪化して、彼が駆けつけるも間に合わずに、息を引きとる。悲痛なシーンである。人生の大きな試練だが、仲間たちとの連帯はさらに強固なものになり、明日へ向かっていこうという勇気を結び合う。争議生活者と特に関係のない多くの人たちが、感動する場面である。
この映画は、誰もが人間らしく生きられる社会を願って、手を結び合う励みを与えてくれることだろう。最後に、主役の石黒賢さん、あなたの洋介役がとてもよかったと、特筆しておく。