山口 小説との共通点としては、やはり世論と運動の問題。それから
争議団の団結の問題や裁判所のあり方などですね。労働組合の役割や
課題で特に感じたのは、JMIU(全日本金属情報機器労働組合・現JMITU)
の労働組合でたたかう問題です。連合の組合員となってたたかうのか、
どうやってたたかうのか、これが究極の課題だったのですね。JALでも
そうでしたけれども。職場の状況もありますから一概にどっちがいいという
結論はないのですけれども。日航のパイロットの場合にも一九六五年に
乗員組合役員四名の解雇と分裂で六百人が脱退して別の組合を設立、わずか
八人になりました。組合の分裂が自由に物言えぬ職場を生み一九七二年の
連続事故につながりました。連続事故からの反省から解雇は撤回され
八年後には八百人の組合員が八人の乗員組合に戻ったという歴史が
あります。それは第二組合の中に仲間を増やすというたたかいによって
実現させてきました。それはパイロットという特殊な職場環境も影響を
与えたのかも知れません。パイロットはチームで仕事をしますから、
仕事中に上司から指示をうけることはありませんからね。
話が飛びますが、社長に推薦されてパイロットになっても、訓練がうまく
いく保証などないですから。飛行適性がなければ途中で諦めざるを得ません。
安倍首相が保証してもダメなのですね。(笑)私たちの場合には第二組合の中で
第一組合が広がったということですが、やはり大企業の中でやるというのは、
かなり難しいことと読んでつくづく感じました。(中略)
切られた人の直面している課題はまったく一緒でしたが、特に印象に
残っているのは、由香里さんという登場人物のことですね。若い男女が高校の
同級生で、男性は大学卒業後に大企業のエリート社員になっているわけですが、
日立製作所がモデルではないかと思うのですけれど。女性の由香里さんは、
家庭の事情で進学をあきらめ、非正規で働いていたところ解雇されてしまう。
彼女は争議をしながらのアルバイトで「掃除のおばさん」の仕事を見つける。
ある日のこと、大手企業の清掃をしていたところ、二人が偶然に出会う場面が
ありました。その場面。これがすごく印象に残っているのです。それって今の
日本社会の働き方の現実というか、働かされ方というか、今の社会状況を
写し出しているように思いました。そういった場面は、きっと日本のあちこちで
あるのかも知れませんね。
田島 よく読みこんでいただきまして、恐縮です。
山口 漠然とした感想なのですけれども。(続く)